16  高知の孤独な海岸、断崖をたどる大鶴津、小鶴津

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高知の山奥をあちこちと訪ねたとき、逆に海に面してはいるが、もっとも行き難い集落はどこかと考えた.

高知を1/25,000地図で隈なく調べた結果、窪川町・小鶴津、大鶴津であると判断した.

2007年に訪ねた.

そして再度、2015年に訪ねた.

天候を見計らい、崖崩れのない晴天続きの日を選んだ.

そこは8年でこのように変わっていた.

 

2017年4月6日 修正版 

 

 

 1.   小鶴津へ

 

高知の西南、志和漁港より山道を登る.

最初に訪ねたとき、麓でこの先に今も住人がいるのか尋ねたが、わからない、と言われた.

やがて断崖の上に出る.

そこには、「雨天は危険なので通行禁止」の表示がある.

 

鶴津の表示

(道路の表示)

 

ここから断崖の中ほどを伝う.

 

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(断崖を行く)

 

崖を削る余地がないので、岩と岩の間に鉄骨を渡し、鉄板を載せている.

ガードレールが曲がり、すっかり錆びたところもある.

ただ手入れはされ、舗装もされた.

向こうから来ると、すれ違いのためバック、ということもあり得る.

少し広いところもあるので、進退窮まることはない.

もっとも来る可能性はゼロに近い.

やがて行く手に入江が見えてくる.

 

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(断崖の中ほどが道路)

 

曲がりに曲がって下ると平地に出る.

三軒の家がある.

防波堤のある小さな浜もある.

 

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(小鶴津)

 

8年前は絵を描きに来た.

一 軒の裏手からの構図がよかったので、そこのおばあさんに断わって腰を降ろした.

おばあさんはウチのお母さんと話し始めた.

 

koturutukinen

(2007年  恥ずかしい!)

 

3時間ほど経っただろうか.

戻ってみると、ウチのお母さんは、疲れて頭が垂れ、半ば目が白くなっていた.

久しぶりに話しのできる人が来たというので、ずっと話していたという.

・ここには舟でお嫁に来た.

・子供は山を越えて学校に通っていた.

ある時忘れ物をして学校から帰ってきて、また山を登って行った.

・つれあいは自分がいないときに、乗っていたトラクターが倒れて下敷きになった.

だれも通らない.

夕方になってやっと発見された.

救急車が入れないので、途中まで軽で運び、中継して病院に行った.

このときは助かったが、しばらく前に病気で亡くなった

・息子と孫は遠方にいるが、ときどき帰ってくる

・町の保健師さんが週に一度来るので心配はない

・自分でも車でときどき買い物に出る

・崖から落ちた車もあるが、土地の者ではない

2015年、また会えるかと思いながら行った.

その家は板を打ち付けて閉ざされていた.

息子さんのところに行ったのだろうか.

それとも施設に入ったのだろうか.

スケッチした場所に、前には無かった新しいお墓がある.

10年ほど前に亡くなった男性の名が最後に刻まれている.

ご主人なのだろう.

辺りの家には人影がないし、畑には丈高く草が生えている.

しかし、植付が行われたところもある.

 

2.   大鶴津へ

 

大鶴津はさらに先の入江になる.

断崖で隔てられているので、行くにはひと山越えなくてはならない.

より狭く、落葉が重なる道で、軽でも廻り難いところがある.

転向は困難だから、もし崩れていればそのままバックで振り出しに戻ることになる.

バイクの男性に会った.

イノシシの罠を見回りに行った帰りで、昨日は80キロがかかったという.

「落石で裂かれるからパンクに気を付けて」と言われる.

やがて草原に出る.

昔は水田であったと思われるが、20年は耕作されていないのではないだろうか.

 

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(大鶴津)

 

廃屋がいくつかある.

8年前、海岸に近い一軒には住人がいた.

道沿いや庭に、きれいに石を並べて谷川の水を流し、小さな畑があった.

人影がちらと見えたように思った.

絵のポイントを探していたので、そのまま通り過ぎてしまった.

前のおばあさんの話では、おじさんが一人住んでいる.

小鶴津で酔っぱらって道の真ん中で寝てしまった.

車の邪魔になったが、起きないので、そのままにした.

今回行くと、誰もいなかった.

庭も畑も草に覆われている.

こんなことなら時間を取り、話を聞いておいたらよかったと思う.

しかし瓦屋根はきれいに葺かれ、周囲は整頓され、近くには新しいお墓がある.

昭和22年に14歳で亡くなった少女の名がある.

戦後の混乱期、病気だったのだろうか.

一方、95歳の男性の名もある.

詮索するようだが、最近に女性の名がない.

おじさんは独身だったのだろうか.

それとも別居していたのだろうか.

どこへ行ったのだろうか.

なぜ行ったのだろうか.

お墓だけが、いろいろのことがありながら、ある一家が長い間ここで生活した記念碑として残っている.

最後の晩はどう過ごしただろうか.

また帰ってくると思っていただろうか.

それとも帰ることはないと考えただろうか.

お酒が好きだったから、波の音を聞きながら呑んだくれたのだろうか.

 

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岸にはだれもいない.

何もない.

 

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(大鶴津の海岸)

 

道はここで尽きる.

この先の海にも、山にも、道はない.

草原を戻り、山を越え、断崖を通って帰ることにする.

 

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(小鶴津へ戻る)

 

リンク:高知の離島・沖の島、鵜来島

    知られざる断崖と入江の大月

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(おわり)

2015年5月1日 | カテゴリー : 高知学 | 投稿者 : 河田 耕一