高知学89 京柱峠を越えて、祖谷の山上で泊まる

屋島で敗れた平家が落ち延びたという祖谷は、かずら橋もあり、「秘境」として有名である.

一方、観光客、観光バスが多数来て混雑するので、どこが秘境?という気もする.

しかし本当の祖谷は、その奥、剣山の麓までにあるのだが、行く人は少ない.

中でもかずら橋の奥にある落合は、急な斜面に広がる集落で、重要伝統的建造物群保存地区となっている.

古民家を修復して展示する例は多いが、ここが異なるのは、8軒の民家に実際に宿泊できることである.

蒸気機関車と同様、公園にある動かない「静態保存」ではなく、実際に使われる「動態保存」なのである.

それも「昔暮らし体験」ではなく、茅葺き民家を生かしながら、内部はゆったりしたセンスの良い山のリゾートである.

3人で泊まったが、一致した意見は「1泊では惜しかったね!」であった.

 

(落合の宿:天一方)

 

2018年4月7日 最終版

 

1.観光と自治体

 

ところで本ホームページは「高知学」なので、地理に詳しい方なら「祖谷は高知県だったかなあ」と思われるかもしれない.

祖谷は徳島県である.

しかし、鳴門や阿波踊りの徳島観光の後、同じ徳島県ではあるが、距離的に隔たった西端の祖谷まで回る人は少ない.

よく聞くのは、高知観光に向かう途中、祖谷と大歩危(これも徳島県)に寄って来たというケースである.

実際、祖谷にもっとも近い県庁所在地は高知である.

観光は自治体の視察旅行ではないから、県域を越えた広域的な観光対応が、四国全体に効果をもたらすと思われる.

「箱根で遊んで伊豆の温泉に泊まる」という場合、「神奈川県で遊んで静岡県に泊まる」という意識はない.

ガイドブックは「伊豆・箱根」であり、「四国」である.

 

 

2.祖谷への道

 

祖谷に向かう道は三つある.

第一は、阿波池田から祖谷渓の断崖の上を通る道である.

昔はこれしかなく、細い道であって、バスも通るが大変スリリングであった.

いま、途中に旅館があり、谷底の温泉までケーブルカーで降りることを売りにしている.

 

(祖谷温泉のケーブルカー)

 

第二は、JR大歩危駅から近年につくられたトンネルを通って来る道である.

最短距離で、今はほとんどがこのルートである.

 

(かずら橋の駐車場)

 

最近、広大な駐車場がつくられている.

以前は細い道を辿り、小さな商店の駐車場に車を留め、山道をかずら橋に下った.

秘境にはるばる来た、という気持ちで祖谷蕎麦を食べた.

今は、橋を渡って土産物をひやかし、トイレ休憩で出てゆく「立寄り観光地」になっている.

 

3.京柱峠から

 

第3のルートは、高知県の大豊町から国道439号線を通り、京柱峠を越えて奥祖谷に向かう.

これは「酷道よさく」として有名で、相当マニアックである.

今回、さらに輪をかけて、JR大杉付近から山に上がり、吉野川南岸の棚田地域を通って439に出ることにした.

 

(大豊町穴内)

 

この道は山上の棚田集落を結ぶ「スカイライン」で、眺望が素晴らしく時々通る.

特に八畝(ようね)、怒田(ぬた)の辺りは、棚田と家々が谷底から山頂近くまで広がっている.

 

(秋の八畝、怒田)

 

山を下って439号線に合流し、標高1,150mの高知・徳島県境の京柱峠に上る.

東西とも眺めはよいが、積雪で冬季は通行止めになる.

 

(京柱峠、高知側)

 

(京柱峠、徳島側)

 

徳島側の左の重なった山並みの向こうに、これから向かう落合の斜面が茶色く見えている.

峠を下り川沿いに出ると、そこはもう「祖谷らしい祖谷」である.

歴史民俗資料館があって、以前に係のおばさんがこんなことを言っていた.

「道で蛇が車にひかれていると、可哀そうに思って、いつも道の脇に移した.

あるときバックに失敗して車が崖から落ち、生きるか死ぬかの大怪我をした.

夢に蛇が出てきて、傷を舐めてくれた.

今こうして動けるのは、そのおかげと思っている」

 

4.落合

 

奥に進み、「かずら橋」から1日4回のバスで30分のところが落合である.

古民家を改修した宿泊施設がある.

これは東洋文化研究家のアレックス・カー氏がプロデュースし、NPOが運営するものである.

氏の「ニッポン景観論」(2014年、集英社)は、日本各地で見られる電線、看板、建設がもたらす醜悪な景観を、モンタージュ写真と共に徹底して批判した快著である.

その対応を具現化しているのがここである.

 

(落合、フロントから)

 

チエックインは麓の廃校になった小学校で行う.

8棟ある家々はそれぞれ貸切だが、元は民家なので構成はまちまちである.

今回は「天一方」と名付けられた家に泊まった.

 

(ダイニングから、京柱峠が見える)

 

ダイニングとリビング、寝室になる2室、浴室、トイレ2箇所がある.

 

(リビング)

 

向かいの山は、高知・徳島県境になる1,900mの三嶺で、雪が残っている.

部屋の上は茅葺きの屋根裏だが、床暖房と二重ガラスで暖かい.

エアコン、温風暖房機もあるが、巧みに隠されている.

 

 

(キッチン)

 

食事はケータリングも頼めるが、一通りの設備があるので自炊にした.

大阪のうどんすきセットを取り寄せ、土鍋、徳利、お猪口と共に持参した.

 

 

(朝の天一方)

 

集落を貫く1本の電線はあるが、各棟の引込口、エアコンの室外機など全く目に入らない.

 

5.観光施策

 

ここには豪華絢爛ではないが、最高を目指した結果があり、それ故「滞在したい観光地」となっている.

観光振興というと、ゆるキャラ、B級グルメ、イベントが定番である.

夏祭りと夜店の延長である.

近場の人は来るが、全国、海外から呼ぶ結果にはならないように思える.

落合は保存地区のため、建設には三好市を通じた国の補助金が利用されている.

高知にも一棟貸切や古民家再生の宿泊施設があるが、多様な仕組みを利用して、最高を目指すことができる援助をしてほしいものだ.

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(おわり)

 

2018年4月2日 | カテゴリー : 高知学 | 投稿者 : 河田 耕一