-番外編- おはなし:「島のイノシシ」

(2016年1月6日 イノシシから聞いたおはなしです)

 

1.はじまり

 

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海にちかいある山に、イノシシの一家がすんでいました.

お父さんとお母さん、そして子どものイノ太郎とイノ子です.

ある日お父さんがいいました.

「なみがしずかになったら、みんなでずっとむこうにみえる島に、およいでいってうつりすもうとおもう.

よあけまえにでれば、ゆうがたにはつけるだろう」

みんなびっくりしました.

「え~.なんで?」

「いやだ、そんなの.

いっぱいいるともだちとわかれるなんて」

「べつにいま、たべものがなくてこまっているわけではないでしょう.

そういえばだいぶまえ、おじさんとおばさんが、そんなことをはなしておよぎだしたが、どうなったかしら.

そのごなんにもれんらくがないわ」

 

⒉.イノシシ父さんの話

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「イノシシとヒトは、ずっとずっとずっとむかしから、おたがいにちかくでせいかつしてきた.

つちの中から、むかしのヒトがつくったイノシシのおもちゃがでてきたそうだ.

ところが、さいきんヒトは私たちのたべものになる、くりやどんぐりの木をきりたおして、実がたべられないすぎやひのきをうえた.

そうするとわれわれはたべものがなくなって、ヒトの家のそばのやさいやおいもまでたべることになってしまう.

やがてヒトは、われわれをやっつけることしかかんがえなくなった.

でもヒトは気がついて、暗い森ではなく、明るい森が山くずれをふせいで、じぶんたちのせいかつをまもるのだとおもいはじめている.

ヒトもかわろうとしているが、われわれイノシシも、あらそいのないようにすむところを広げなくてはならない.

にげだすのではない.

いまのイノシシがしらない、あたらしいとちをさがすのだ.

いちにちおよぎつづけるのはたいへんだ.

でもだれかがやらなければならない」

 

3.海へ

 

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その日がやってきました.

お日さまがかおを出すまえ、みんなは海にはいりました.

「つめたいよう!」

子どもたちはひめいをあげました.

「さいしょはつめたいが、われわれの毛はあぶらがあって水をはじくから、すぐなれるよ」

そのとおり、しだいにリズムにのって、四本の足がうごきます.

お日さまがまうえをすぎるころ、島がだいぶ大きくみえるようになりました.

そのときいへんがおきたのです.

いくらいっしょうけんめいに足をうごかしてもすすみません.

おもっていたよりながれのはげしいところがあったのです.

すこしでもちからをゆるめると、島とちがうほうこうにながされてしまいます.

「足がうごかないよ~」

「あたまがあがらない~」

こどもたちは、とうとうお父さんにしがみついてしまいました.

いくら力のつよいお父さんでも、たいへんです.

うっぷ.

波がくるともぐってしまいます.

 

4. たすけ

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そこによってきたのが、クエ、グレ、イシダイの魚たちでした.

「イノシシくん.きみたちはなにをしているのかね」

「あ、あそこのしまに行きたいのですが、ご、ごらんのとおりで」

「そうか.それならこどもたちは、わたしたちがたすけてあげよう」

なにしろ、たいちょう1メートルいじょうで、きんにくもりもりの魚たちですから、イノシシの子どもなどかるいものです.

「さあ、つかまりなさい」

つかまらせてひっぱったり、下からおしあげてくれました.

おかげでながれの急なところをだっしゅつできました.

島のすなはまがみえてきました.

「もうだいじょうぶだ.ゆきなさい」

「ほんとうにありがとうございました.なんとおれいをもうしあげてよいやら」

イノシシの父さんも、母さんも、子どもたちも、心からおれいをのべたのでした.

こうしてイノシシのかぞくは島にじょうりくしました.

「ここはいいところだ.くりも、どんぐりも、やまいももおおい」

みんなとびあがってよろこんだのです.

イノシシはその場で2メートルはとびあがれるのです.

 

5.母さんイノシシのしんぱい

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そのとき母さんイノシシがいいました.

「でも、われわれがいいとおもう島には、ヒトもいいとおもってやってくるのではないかしら」

父さんイノシシは、あさでてきた山のほうをじっと見ていいました.

「むこうではヒトもすくなくなっているし、子どももいない.

まずやってくることはないだろう.

でもなにかのりゆうで、この島をりようしようとするかもしれない.

そのときはわれわれがじゃまになる.

てっぽうをもったヒトが、イヌをつれてやってくる.

イヌはわれわれをほえたてておいだそうとする.

そのときあわててにげだすとうたれてしまう.

そんなときは、にげずにイヌをじっとにらんで、よってゆくのだ.

そうするとイヌのほうがびっくりしてにげだす.

でも、なかにはとびかかってくるイヌもいる.

そんなときはキバでやっつけるしかない.

ないとはおもうが、子どもたちにもおしえておかなければ」

 

6.みんなのゆめ

父さんイノシシがいいました.

「みんなつかれただろう.

こんやはこの草の上でねよう.

あしたから、つちをほって木の実をうずめたり、どろのおふろをつくったりで、いそがしいからね」

みんな、こんなことをかんがえながら、ねむりました.

 

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父さんイノシシは

「さかなくんには、ほんとうにおせわになった.

どうおれいをしたものか.

そうだ、なかまがときどきつりあげられる、とはなしていた.

もしそんなことがあったら、つっているヒトを、うしろから、はなでつっついてやろう.

そうするとびっくりして、ちからをゆるめるだろうから、そのすきににげることができる.」

母さんイノシシは

「おじさん、おばさんはこのしまにおよいでこなかったようね.

もしここにきていれば、すぐにあいにくるだろうから.

でもべつのしまにいるなら、においがつたわってくるでしょう.

わたしたちのにおいも、べつのしまにすぐつたわるでしょう.」

イノシシはにおいで、たがいにつうしんするのです.

イノ太郎は

「きょうはたいへんだったが、おもしろかった.

ヒトのこどもも海をおよぐのかなあ.

でもまるいものにのっていたから、らくそうだ.

空に光るあそこにゆこうとするかなあ.

でもそれはたいへんだ.

とびあがってもすぐおちるからね」

イノ子は

「こまっているときには、たすけてあげなくてはね.

このあいだ、ヒトのおばあさんが、はたけでおいもをほっていた.

こしをまげたり、たいへんそうだった.

ほりかえすのを、たすけてあげたらよかった.

そうしたら、もしかして、おいしいおいもを、すこしわけてもらえたかもしれないね.」

 

なみはしずかに音をたて、そらには月がひかっていました.

 

(おわり)

 

2015年10月27日 | カテゴリー : 高知学 | 投稿者 : 河田 耕一

高知学27 高知の離島.沖ノ島、鵜来島.だれが住む?何がある?

高知にも離島がある.

西南端の沖ノ島と鵜来(うぐる)島である.

宿毛(すくも)から市営定期船が朝夕2便あり、約1時間で着く.

沖ノ島の母島(もしま)、弘瀬の二つの港と鵜来島を巡っている.

海が荒れた時は欠航になるが、昔と違って2,3日も続くことはないそうだ.

行きは白波が立っていて左右に揺れたが、荒れた道路を通るようなものである.

無重力状態で奈落の底に落ちるようなひどい揺れではない.

 

2018年2月5日 修正版

 

 

1. 定期船

 

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(宿毛片島港.右は80トン・アルミ合金の定期船、左は瀬渡し船)

 

市営定期船は離島の生命線である.

食料その他生活物資のすべてを運んでいる.

フェリーではないが、修理や車検に出す軽自動車も運ぶ.

 

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(左が沖ノ島、中は姫島、右は鵜来島)

 

沖ノ島がもっとも大きく、かつては500人以上の住民がいたが、今は150人ほどである.

鵜来島は約20人である.

四国西部の豊後水道に面した地域は、沈降と浸食で複雑な地形になっていて、半島や島嶼が多い.

高知の島々は最南端になり、太平洋に向かっている.

他にも姫島、蒲葵島などがあるが、断崖で囲まれ、小さくて水も得難いので無人島である.

さらに小さく、波に耐えて辛うじて残った、硬い岩盤からなる岩礁があちこちにある.

 

⒉ 沖ノ島 母島

 

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(沖ノ島 母島)

 

母島がもっとも大きい集落である.

何軒かある旅館の一つに泊まった.

夕食では、同席の客の釣果である、サバの刺身のお裾分けをいただいた.

夕暮れの港での生ビールはうまい.ジョッキを重ねた.

丁度秋祭りの日で、島を出た人や親戚も来て賑わっている.

神輿も出て、それぞれの船に祈願をする.

離れる人はテープで見送ってくれる.

 

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(出航する定期船)

 

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(母島から見た姫島)

 

母島からはいくつかの島が見える.

姫島が大きく、海面に女性が横たわったように見えるので、そう名付けられている.

手前は三ノ瀬島で、右の西洋の古城が海に沈んだように見えるのは水島である.

 

3.瀬渡し

 

これらの島や各地の岩礁は大物の磯釣りで知られる.

南からの黒潮がまず日本に当たるのがこの地である.

潮流に乗って遊弋してくる魚は多い.

しかも岩場は深い海底から塔のように突き出ている.

深みにすぐ糸を落とすことができる.

宿には1.26m、35kgのクエ、70cm、8.6kgのイシダイの魚拓があった.

20-25cmの小魚はリリースするよう、港に掲示してある.

 

(母島の夕)

 

釣船は、40人ほど乗れるクルーザーで、中には1,000馬力級エンジン2基を備えた船もある.

舳先にタイヤが三つ重ねて付けられていて、そこを岩礁に押し当て、釣客は船首から岩場に乗り移る.

同じ岩礁に集中しては混乱するので、12隻ある船には日ごとに瀬が割りあてられている.

夜明け前、目覚めると何隻かいた船は、いつのまにか離れていた.

大馬力船ながら静かなものである.

沖を見ると、岩場を照らして釣客を乗り移らせる船の明るいライトがいくつも見える.

 

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(家々をつなぐ石段)

 

沖ノ島にはこの時、2人の小学生と、5人の保育園児がいた.

2017年夏、東京での「全国小さな音楽コンクール」に沖ノ島小の6人が出て、自作の楽器を演奏し、銀賞を獲得した.

テレビで見たが、古楽器、そして中世音楽を思わせる、素朴で心を打つ演奏であった.

島を挙げて祝賀会をしたという.

6人なら、保育園から進学した子がいたのだろう.

島には、当然ながらお年寄りが多い.

ただ、瀬渡し、接客を業とする若い人もいるし、島外から来て別荘風に住んでいる人もいる.

生活費は極限まで少ない.

大体店がないが、物品の共販所はある.

魚は漁師がくれるが、自分でも防波堤で釣ることができる.

月に1回くらい宿毛に行って、若干の買物をすればそれで十分である.

診療所があり、交代で医師が来ている.

山上にはヘリポートがあり、緊急の対応ができる.

石段を上がり降りする脚力は必要だが、逆にこれが日々のトレーニングになっているとも言えよう.

 

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(沖ノ島 弘瀬)

 

4.イノシシ

 

野菜は張り出したテラスに、わずかばかりの土を入れた前庭で育てる.

ここに立ちはだかるのがイノシシである.

せっかく育てた野菜を食い荒らす.

昔はいなかった.

本土に地続きの柏島から泳いで渡ってきたとされている.

柏島から沖ノ島までは直線距離で5.5km、間に小さな無人島があるので、「遠泳」の間で一休みできる.

小学生は以前は徒歩で登校していたが、イノシシが出るので今はスクールバスを利用している.

 

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(鵜来島.大きい建物は休校になった小中学校)

 

さらに沖ノ島から鵜来島は6.5kmあるが、その間には休むところはない.

しかしイノシシはこれを泳ぎ切って鵜来島に到着した.

小さく見える島を彼らはどうやって認識したのだろうか.

視覚なのか臭覚なのか.

なぜ荒海をついて渡ったのだろう.

一頭では繁栄しない.

イノシシに本土で食い詰めたとか、駆け落ちするとかの理由はないであろう.

志半ばにして体力が尽き、流されてしまったものもいるかもしれない.

生物には、いかなる難関があっても未知の領域に挑戦し、自己のテリトリーを広げるというDNAがあるのだろうか.

それが故に、人類はアフリカを出てマゼラン海峡まで達し、太平洋を渡ってミクロネシアの島々に至ったのかもしれない.

 

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リンク:雨の日は通行禁止、断崖の大鶴津、小鶴津

    宿毛から柏島、断崖と入江

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(おわり)

 

2015年10月16日 | カテゴリー : 高知学 | 投稿者 : 河田 耕一