有名な桂浜から東へ、20kmに渡って砂浜が続く.
高知は砂利や断崖の海岸が多く、長い砂浜はここだけである.
昔は松林が続き、小舟が出し入れされ、地引網が行われていた.
消波ブロックと堤防で変わっているが、海辺の村落の姿は留めている.
東端にあるのが、どろめ祭りの赤岡である.
2017年5月 初版
2018年7月25日 改訂版
1.どろめ祭り
(着陸)
高知への飛行機は、室戸岬方面から海岸に沿って高度を下げる.
一歩空港を出れば、強烈な陽射しと澄んだ空気が、南国に来たことを実感させる.
今日は下の砂浜にテントが並んでいる.
毎年4月末に開かれる、赤岡のどろめ祭りである.
どろめ、とは生のイワシの稚魚で、茹でたものがシラス(チリメン)である.
年中この海で採れるが、最盛期は春である.
(漁船のパレード)
どろめ祭りのテント席は有料で、どろめ汁、丼に、酒2合がついている.
酒2合が高知らしいところで、1合なら「なんじゃこれは」となろう.
もっとも2合で終わるとは考えられないが.
(大杯飲み干し)
催しには、ライブ、子どものウナギつかみ取りなどあるが、最大のアトラクションは酒の大杯飲み干しである.
男は1升、女は5合の盃である.
速さを競うのだが、こぼすと減点される.
男女とも、少なくとも10秒台でないと入賞の見込みはない.
昔、高知での仲居さんの採用条件は、5合飲めることだった.
今も料亭に県外の人を招くと、客を差し置いて仲居さんがぐいぐい飲むので、あっけに取られている.
飲み干しはショーで、あおり役の男性が「グーッとグッと」、「撒くな撒くな」と、女性司会者と共に盛り上げる.
急性アルコール中毒が心配になるが、対策は講じられている.
もっとも、テントの中の一行が熱心に観戦しているわけではない.
ショーはショーで、白昼堂々、陽光のもと、大勢で海で呑むのがうれしいのである.
こちらは速さではなく、量である.
2.砂浜
(浜に沿う集落.向こうの岬は桂浜)
今は岸に防波堤が築かれ、消波ブロックを並べた離岸堤が設けられている.
もう漁業では利用されない.
防波堤の内側の砂浜は農業ハウス地帯となっている.
全国のシシトウの9割は高知でつくられているが、その中でもこの地域の比率が高い.
(桂浜が見える)
堤防で遮られるから、陸からの土砂の流入はない.
山の土砂はダムに貯まるから、海には入らない.
そのため、砂浜は徐々に痩せる.
堤防の嵩上げが行われ、海浜植物が無く、目下砂漠状態である.
松の苗が植えられているが、これからである.
(浜の集落.潮風でトタンは錆びている)
海岸には10mほどの高さの、太古からの砂丘(浜堤)が沿い、家々はそこに並んでいる.
防波堤によって生活圏が広がり、海に近い方にも住居がつくられた.
波打際と平行に狭い道が伸びている.
砂地の白っぽい風景は、やはり海辺である.
何があるという訳ではないが、ほとんど車は通らないし、ぶらぶら歩きによい.
(フラフ)
5月で鯉幟とフラフがはためいている.
「フラフ」とはオランダ語の旗から来ているが、高知の風習である.
多くは金太郎や宝船だが、特注で家業の建設工事など描かれることもある.
(砂丘に並ぶ家々と戦争遺跡)
「大東亜戦争」の末期、「本土決戦」になれば、沖縄に次いでこの地に「敵前上陸」が行われる可能性があった.
ラッキョウ畑の中に、コンクリート構造物の戦争遺跡が残っている.
3方向に銃眼があるが、ノルマンデイのドイツ軍のような強固なトーチカではない.
東の住吉には、特攻モーターボート「震洋」の基地が設けられていた.
300kgの火薬を積み、敵艦艇に体当たりするのである.
機会がないまま、8月15日に終戦となった.
ところが、翌8月16日の夕刻に出動命令が出た.
急遽準備中、火薬に引火して爆発、隊員160名中111名が死亡した.
どこから、だれが、命令を下したか、謎のままである.
毎年慰霊祭が行われている.
(震洋隊慰霊碑)
3.赤岡
赤岡はどろめ祭りの他にも、何かとイベントが多い町である.
幕末、高知城下を追われた絵師金蔵が滞在し、芝居絵を描いた.
夏の宵、おどろおどろしい絵の屏風が、持ち主の玄関先にろうそくに照らされて飾られる「絵金祭り」がある.
冬には「冬の夏祭り」と称し、道路や広場にこたつが置かれ、生ビールやアイスを味わう.
(冬の夏祭り)
一方、新しくつくられた芝居小屋、弁天座がある.
金毘羅の730席、内子座の650席に比べると、250席で小ぶりである.
しかし、花道、升席、すっぽん、など本格的なつくりである.
赤岡には絵金歌舞伎保存会があり、市民による公演が行われる.
海老蔵の公演もあった.
(絵金歌舞伎保存会の公演)
2016年の出し物は「葛葉子別れ」で、幕切れ、白狐が我が子を残し、障子に歌を書いて去る.
観客一同、思わず涙する出来であった.
(おわり)
関連記事リンク: